実はタイレノール事件から何も進歩していない

先日、某酒造会社に、商品に毒を入れたという連絡があり商品の回収を行った。
原因はなんであれ自主回収というのは現在日常茶飯事であり(年間約900件程度の自主回収がおこなわれれている)、ましてや、毒を入れられたというのはらば回収するでしょ。というのが一般消費者の心理だと思うし、さらに最近発生した美白化粧品の問題と比較している人もいる。

さて、ここであらためて食品に意図的にいたずらをされる可能性の有無について考えてみたい。
今回のように、商品へのいたずらをタンパリングといい、タンパリングの最初の国際的な事件は1982年のジョンソン&ジョンソンのタイレノール事件である。日本国内でタンパリング事件として最初に認識されたのは、1984年に発生したいわゆるグリコ・森永事件であり、これを機に製造会社では外部からのいたずら防止つまりタンパリング防止に力をいれるようになり、万一、外からいたずらされた時にそれがわかる包装形態へと変えていった。

例えば、
お菓子のオーバーラッピング(商品全体を包んでしまう、商品によっては開封しました表示が出る)、
インスタントラーメンなどのシュリンク包装後の賞味期限表示(いたずらしてシュリンク包装まであわよくば出来たとしても全く同じ賞味期限印字をうつことは極めて困難)、
飲料のピルファープルーフキャップ(ペットボトル飲料などで開栓するとキャップの下部が破断して容器口に残るしくみ)
などがタンパリング防止のため実施されている包装形態である。

では、冒頭にあげた回収該当商品はどうだったのか?
残念ながら現物を見ることができなかったが、次のように考えられる。
その1:容器包装がタンパリング防止となっていなかったため、混入の有無が外見からわからないため回収とした
もし、容器包装がタンパリング防止となっていなかったとしたら、これは製造会社の怠慢以外の何物でもない。過去に上記にあげた事件が発生(小さいものを含めればこれ以外もある)していることを鑑みれば、企業としてタンパリング防止をするのは当然である。

その2:タンパリング防止措置はとっており外見から明らかにわかるが回収した
実は非常に根深い問題はこちらである。明らかに外見でわかり、もしいたずらにより開封されているとするならばどのようになっているか告知し注意喚起を促すのが最もである。消費するのに何ら問題ない商品をコストをかけて回収し廃棄するのは環境面でも経済面でも負荷がかかり、そのコストはいずれ社会全体へはねかってくるからである。
そしてもうひとつ、なかなか消費者教育として進んでいないのが、このタンパリング防止のために複雑な包装形態がされていることが一般消費者をはじめ流通業においても認識として浸透していないことである。この複雑な包装形態の本来の意図がわかっているのならば、もしタンパリングされていてもすぐ気がつくし、注意喚起だけで回収にまで及ばずに済むのである。
さらに、それがクレームになることも減ると推測される。確かに私自身開けにくいとか何重にもなっていて開封が面倒くさいと全く思わないわけではない。しかしながらタンパリング防止のためにされていることを知っているので、その危険性と開封時との煩雑さを天秤にかけると少々開封時に煩雑でもタンパリング防止されていることの方に軍配が上がるのである。
そして、さらに根深くしている問題としてユニバーサルデザインがある。ユニバーサルデザイン7原則に基づくと、弱い力でも効率よく快適に使える(この場合開封できる)こととなっている。確かに原理原則はそうである。しかしながら現在はそれを補助する道具も多数市場にある。よってタンパリング防止の包装形態を開けにくいといって苦情をいうのではなく、補助道具を使用して意図を理解すべきなのである。

何か問題が発生すれば自主回収することは作業・手段としては簡単である。もちろん、事と場合によっては回収は必要である。しかし、何でもかんでも回収すればいいというものではない。
回収をしなくても被害をくいとめる社会をつくるために、消費者自らも学ぶことが必要なのである。
そうでなければ、我々の社会はいつまでもたってもタイレノール事件が発生した時と何も進歩していないのである。

ましてや、冒頭にあげたように、今回のこの酒造会社の回収と美白化粧品の問題とは本質的問題が全く異なっており、回収が一番!という世論を助長するのはいかがなものかと思う。